たかが耳垢、されど…
学校での耳鼻咽喉科に関する話題

2012.01.30更新

以下の文章は、院長が大阪市学校保健会発行の「学校保健タイムス」に記事として執筆したものです。

学校健診などで耳垢を指摘されても、「耳垢ぐらい・・」と放置してしまうこともあり、また、逆に日本人の清潔好き、昨今の清潔志向が相まって、耳掃除をしすぎて耳鼻咽喉科の厄介になることもあります。耳垢に対する正しい知識を持ちましょう。

 耳垢には乾性耳垢(乾燥した耳垢)と湿性耳垢(湿った耳垢、俗に「べた耳」、「ヤニ耳」という)があります。耳垢の乾性・湿性の割合は人種によって大きく差があり、日本人全体では湿性耳垢の人は約16%と言われています。ただ国内でも北海道や沖縄と、本州の間で割合に大きな差があり、北海道では約50%が湿性耳垢であるとの報告もあります。日本人は乾燥耳垢の人が多いのですが、人類全体を見てみると、多数派を占めるのは湿性耳垢の方で、乾燥耳垢はむしろ少数派です。耳垢は、外耳道(耳の穴)に存在する二種類の腺「耳垢腺(耳道腺)」(汗腺の一種のアポクリン腺)と「皮脂腺」からの分泌物に、剥離脱落した角化表皮細胞(いわゆる普通の垢)や毛髪、粉塵などが混在して出来た物です。耳垢の役割としては、外耳道と鼓膜の保護・洗浄(鼓膜、外耳道はいずれも比較的薄い皮膚ですから、耳垢はこれらを覆う事で物理的な保護・乾燥防止・潤滑の役割を持っているといわれています)、感染防御(耳垢の成分にはリゾチーム・IgA・IgG等が含まれ、抗菌・抗真菌作用を持っています)昆虫の侵入防御(耳垢の成分が持つ苦味・臭いは、耳の穴に昆虫が侵入してくるのを防いでいるという説があります)などが言われています。このように、有用な役割がある耳垢を無理に掃除して取り去る必要はないのです。また、外耳道には、migration(流通、自然な流れ)といわれる奥から耳の穴の入口の方への皮膚の動きがあり、耳垢はこの動きによって運ばれ、自然に排出されるようになっています。従って、耳掃除などしないとのが、一番正しいのではないかと考えます(他の動物は耳掃除はしませんね)。

 ただし、ある程度の耳垢が溜まっていると、プールなどで水が入った時にふやけて膨張し、耳の穴をふさぐと難聴をおこすことがあります。また、健診の時に耳垢があるために、その先の鼓膜などが十分見えない場合があり、この場合は耳垢を除去したうえで再度、鼓膜の所見を確認する必要があります。従って、学校健診で耳垢を指摘され、専門医への受診を勧められた場合は、「たかが耳垢・・」と考えず、面倒でも耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。



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